ブルンストロームステージ手指|母指が動かないときの評価と介入を脳卒中認定PTが解説|ヤマ脳勉強ブログ

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評価した結果、「ブルンストロームステージ(BRS)手指Ⅱ。」
カルテには「母指の随意運動なし」と書ける。評価はできる。
でも……明日のリハビリで、この動かない母指に何をすればいいのか……。

「BRSは測れた。でも介入が分からない……」
「母指だけいつまでも動かないので、廃用手から抜け出せない……」
「握り込みは促せるのに、母指だけ取り残される……」

片麻痺の手を担当する1〜3年目のセラピストなら、たぶん一度はこの壁にぶつかっているはずです。ステージの判定は覚えた。けれど「動かない母指をどう動かすか」は、どの教科書にもはっきりとは書いていません。

だから「ブルンストロームステージ 手指」で検索して、その先の介入を探しにきたあなたの着眼点は、正しいです。

ビギナーくん
ビギナーくん

母指が動かない患者さん、握り込みは練習させてるんだけど、母指だけどうにもならなくて……。何から手をつければいいの?

ヤマ
ヤマ

ええとこ突いてるわ。先に結論いくで。
母指が動かんときは、“動かそう”とする前に”感じさせる”んや。
指腹への接触と、CM関節・MP関節の運動覚への注意!
ここが入口になりやすいで。

私自身、急性期から回復期にかけての症例で、この順番に変えてから母指の反応が変わった手応えがあります。その中身を、評価から介入まで順番に見ていきましょう。

この記事でわかること
  • 母指が動かないときに、なぜ「感覚」から入るべきなのか?その理由
  • 指腹接触・CM/MP関節の運動覚を使った具体的な方法・手順
  • やってはいけない「力任せ」の介入と、その避け方

まず結論:ブルンストロームステージ手指の「今」を正しく掴むことが介入の出発点

母指を動かす前に、やることがあります。
その手指が今、BRSのどの段階にいるのかを正確に掴むこと。段階を取り違えたまま介入すると、努力や介入の方向がズレて空回りします。

BRS手指は、脳卒中後の手指の随意性(自分の意思で動かせる度合い)がどこまで戻っているかを、6段階で捉える尺度です。ここで最初の落とし穴を1つ伝えます。

手指のBRSは、上肢のBRSとは別に評価します。上肢が動いても手指は別段階、ということは臨床では当たり前にあります。「上肢Ⅳだから手指もそのくらい」という思い込みは、母指の評価を雑にする一番の原因です。

段階の見分け方をざっくり整理すると、次のようになります。

ブルンストロームステージ|各ステージの説明
ビギナーくん
ビギナーくん

あ、たしかに。上肢はⅣまで戻ってるのに、母指だけⅡって患者さんいるかも。

ヤマ
ヤマ

そうやねん。そこでステージⅡの手に、ステージⅢの「握り込みを促す」定番アプローチを持ち込むと『動くけど使えない手』になり、母指だけ取り残されてしまうことが多いねん。
それはなんでか、構造から見ていくで。

※BRS手指そのものの評価手順(グーパー動作での判定など)をおさらいしたい方は、わかりやすくまとめています。
【実録】ブルンストロームステージ手指の評価で迷わない

なぜ母指は動きにくいのか——構造と脳の両面から

【結論】
母指が最後まで残りやすいのは、単純な「筋力不足」ではありません。母指の運動を支える脳の働きと、母指に入ってくる感覚情報の乏しさが絡んでいる。だからこそ、力ではなく「感覚の入口」から攻める意味が出てきます。

まず脳の話から解説していきます。
手指、とくに母指の細かい随意運動は、皮質脊髄路(大脳の運動野から脊髄へ直接つながる神経の通り道。手の巧緻性を担う主役)に強く依存しています。脳卒中でこの経路がダメージを受けると、体幹や肩に近い動きより、手先の分離した動きのほうが戻りにくい。母指はその「戻りにくさ」の最後尾にいるわけです。

次に構造の話です。
母指の付け根にあるCM関節(手根中手関節。母指を手のひらの面から立ち上げたり、対立させたりする関節)は、他の指にはない自由度の高さを持っています。あらゆる方向に動ける代わりに、制御が難しいのが特徴です。健康な手ではこのCM関節のおかげで、自由さと器用さが生まれますが、麻痺した手では「どう動かしていいか脳が指令を組み立てにくい関節」になります。

ヤマ
ヤマ

ここ、臨床の肌感覚で一番大事なとこやな。
麻痺した母指に、感覚のフィードバックが乏しいまま”運動の指令”だけ送っても、反応は出にくいねん。
本人の脳には「今、母指がどこにあってどう動いてるか」の情報が届いてないってことやねん。

ビギナーくん
ビギナーくん

地図を持たずに歩けって言われてるようなもの、ってことだね……。

だから「動かす」前に、まず「感じる」ことができるのかが、運動機能を取り戻すために必要となります。なお「母指が動かない」を一括りにしないことも押さえどころです。

CM関節の対立(母指を小指側へ向ける動き)なのか、MP・IP関節の屈曲なのか、内転・外転なのか——どこが動かないかを分解して診ると、狙いどころが変わります。

※運動麻痺の病態を整理し、理解する上で必要な情報をまとめています。
なぜ動かないのか?運動麻痺を阻害する3つの要因

動かない母指に、まず”感じさせる”——指腹接触とCM/MP関節の運動覚

ここが今回の一番の肝です。

母指が動かないとき、私は”動かす練習”を後回しにします。先にやるのは、指腹(指の腹)への接触と、CM関節・MP関節の運動覚に、本人の注意を向けてもらうことをしています。
この順番に変えてから、母指の反応が出やすくなった手応えを、何例かで感じていますが、大切なことはどのような症例が該当しそうなのかを見極めることです。

この介入が「はまりやすい」患者像
  • 時期:急性期の意識障害が晴れた発症2週間以降〜回復期
  • 段階:BRS手指Ⅱレベル中心(〜Ⅲも可)。母指は動かない、またはかろうじて動く手
  • 機能:感覚障害がない、もしくは中等度鈍麻レベル

※母指が難しい場合は、他の手指でわかりやすいところから介入
※接触よりも運動覚の方がわかりやすい場合は、運動覚から介入

患者さんのポジティブな面を探しながら進めることが介入のポイントです。

なぜ感覚・運動覚から入るのか

運動の前に感覚から入る理由は、シンプルに言えば「脳に動かすための地図を示す」ためです。

自分の関節がどう動いているかを感じ取れると、脳の中でその部位の運動イメージ(実際に動かさなくても、動きを頭の中で思い描く働き)が立ち上がりやすくなります。運動学習を扱った文献——たとえば森岡周先生の一連の著書でも、身体からの感覚情報と運動イメージが運動の再獲得に深く関わることが繰り返し述べられています。動かないから動かす、ではなく、感じられるから動かせる、という順番です。

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→運動麻痺を脳の働きから理解したい人には必読の一冊!

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→発達の過程からリハビリで何をすべきかを詳細に解説した一冊

明日の臨床ですぐ使える確認法

患者への介入の前に、以下の評価をしてみてください。

①閉眼で、麻痺側の母指のCM関節かMP関節をあなたが他動的に動かし、「今、どちらに動きましたか」と答えてもらう。
②閉眼で、健側母指の指腹を触ってから麻痺側母指の指腹を触り、「触られた感じは同じですか?」と聞く。

曲げたのか伸ばしたのか、開いたのか閉じたのか。麻痺側母指の指腹の表在感覚は低下していないか。ここを評価することで、表在感覚や運動覚がどれだけ届いているかが分かります。外れるなら、まずここを押さえる価値があります。
これは評価であり、そのまま介入の第一歩になります。

実際の介入手順

母指の運動麻痺に対するアプローチ
  1. 指腹への接触課題:閉眼で母指の指腹にセラピストが軽く触れ、「触れているのは母指の腹ですか、側面ですか」など接触の場所を答えてもらう。手の感覚地図を呼び戻す入口。
    わかりやすい方の部位に、柔らかい素材(タオルやティッシュ)や硬い素材(木の板)などで質感を感じてもらう。
  2. 運動覚の課題:CM関節・MP関節を他動でゆっくり動かし、「どちらへ動いたか」を閉眼で答えてもらう。当てられるようになってきたら、範囲や速度を変えて難易度を上げる。
    閉眼で母指と示指を他動運動によって厚さの異なるものを把持させ厚さを答えてもらう。
  3. 随意運動へ:感じ取れる状態ができてから、「今動かした方向へ、自分でも少し動かしてみましょう」と自動介助運動からはじめ、随意運動へ橋渡しする。
ビギナーくん
ビギナーくん

たしかに、この手順なら患者さんも動かしやすそうだね。

ヤマ
ヤマ

この順番の要点を一言で言うで。
動かせへんなら、まず感じさせる。
感覚が戻る手応えが出てくると、そのあとの随意運動の練習が、まるで別物みたいに進み始めることがあるんや。

ビギナーくん
ビギナーくん

いきなり「動かして」じゃなくて、「感じられる」を先に作るんだね。
明日やってみるよ!

手で物をつかむ動作に、前頭-頭頂葉のネットワークが関わることを、病変研究とfMRIから示した研究です。母指への感覚入力から運動へつなぐ発想の、背景理解として参考になります。

F. Binkofski,et al.Human anterior intraparietal area subserves prehension
A combined lesion and functional MRI activation study.Neurology 50:1253-1259,1998.

もちろん、これで必ず母指が動くわけではありません。
回復には個人差があり、時期や損傷の程度にも左右されます。ただ「動かす一辺倒でうまくいかなかった手」に、感覚という別の入口を用意する価値は、臨床で十分に感じているので、一手段として知っておいて損はありません。

やってはいけない介入——力任せと過剰努力の罠

感覚から入る一方で、はっきり避けたいアプローチもあります。
それは、母指を「無理にでも動かそう」と本人に力ませることです。
過剰な努力は、連合反応(麻痺していない側や他部位の力みが、麻痺側に不要な緊張を呼び込む現象)や共同運動パターン(複数の関節が同時に働き、粗大な運動となる現象)と筋緊張を強め、かえって指の分離を妨げます。

努力性の代償が起きているサインは、見ていれば分かります。

こんなサインが出たら要注意!
  • 母指を動かそうとした瞬間に、他の指が一緒に握り込まれる
  • 手関節が掌屈(手首が手のひら側へ折れ込む)している
  • 前腕全体に力が入って、肩まですくんでいる
  • 顔が明らかに力んでいて、余裕がない感じがする

これらが出ているときは、課題の難易度が本人の今の能力を超えています。

対処はシンプルで、「頑張れば届く」より少し易しいところまで難易度を下げることです。感覚課題に戻る、他動介助を増やす、動かす範囲を小さくする小さく成功させて、力まずにできた感覚を積み重ねるほうが、遠回りに見えて近道です。

こうした「麻痺手の見方」そのものを底上げしてくれたのが、森岡周先生のセミナーや書籍でした。運動を感覚や認知の側面から捉え直す視点が体系立てて書かれていて、読んでから、動かない手を前にしたときの引き出しが明らかに増えました。
「なぜ動かないのか」を脳と身体の両面から考える土台がほしい人には、参考になる一冊です。

\動かない手を「脳」から考える土台に/

→ 麻痺手を「脳と感覚」から捉え直したい人に最適の一冊

評価から介入へつなぐ——記録と再評価のサイクル

最後に、地味だけど大切な話をします。

母指は一度の介入で動くことはまずありません。
だからこそ、BRSの再評価と、細かな変化の記録で「効いているか」を可視化します。

BRS手指は6段階と粗いので、Ⅱのまま数週間、段階上は「変化なし」に見えることがよくあります。でも実際には、その内側で微細な変化が起きていることがあります。セラピストはここを見逃さないようにし、しっかり患者さんにフィードバックをしていきましょう。
ここを拾う指標を、自分で持っておくと介入がブレません。

記録しておくと役立つのは、たとえばこんな項目です。

✓ 運動覚の課題で「どちらに動いたか」の正答率
✓ 指腹接触への反応の有無
✓ 随意運動を促したときの、母指のわずかな動きの範囲

これらを週単位で並べると、段階が上がる前の「兆し」が見えてきます。

ヤマ
ヤマ

この記録の習慣は、そのまま臨床の言語化能力を鍛えることにもつながるで。
「なんとなく良くなった」が「運動覚の正答率が上がってきた」に変わると、他職種への説明も次の一手の判断も、解像度が段違いになるで。

BRSを「取って終わり」にしないこと。この視点は、上肢・下肢の評価でも共通します。麻痺の全体像を掴みたいときは、参考になります
暗記しないブルンストロームステージの覚え方(総論)
【実録】ブルンストロームステージ上肢の臨床実践法
【実録】ブルンストロームステージ手指の評価で迷わない

よくある質問(FAQ)

Q
ブルンストロームステージ手指と上肢は別々に評価しますか?
A
ヤマ
ヤマ

別々に評価する。

上肢が回復してても手指は別の段階、はよくある話。「上肢Ⅳやから手指も同じくらい」で母指の評価を省くと、介入の狙いを外す原因になるから要注意やで。

Q
母指が全く動かない(BRS手指Ⅱ)ときは何から始めればいいですか?
A
ヤマ
ヤマ

まず”感じさせる”ことから。

いきなり動かす練習より、指腹への接触やCM/MP関節の運動覚に注意を向けてもらう課題から入ると反応が出やすい場合があるで(ただし、関節拘縮予防は必要!)。閉眼で他動的に関節を動かして「どっちに動いた?」を答えてもらうのが入口になるで。

Q
ブルンストロームステージ手指のⅢとⅣの違いは?
A
ヤマ
ヤマ

母指が「つまみ」に参加するかどうか。

Ⅲは全指の集団屈曲(握り込み)はできるけど、伸展や個別の動きが難しい段階。Ⅳは横つまみ(母指と示指の側面でつまむ)や部分的な伸展が出てくる段階や。母指がつまみに絡み始めるかが、ひとつの目安になるで。

Q
上田式12段階とブルンストロームステージ手指はどう使い分けますか?
A
ヤマ
ヤマ

A.細かさで使い分ける。

BRSは簡便で職場内の共通言語にしやすい一方、段階が粗い。細かな変化を追うなら上田式が有効やで。ちなみに研究や詳細評価の場面では、フーゲル・マイヤー評価法(FMA: Fugl-Meyer Assessment)っていう、より精密な尺度が主流になってきてるで。

まとめ:動かない母指は「動かす前に感じさせる」

母指が動かない手に向き合うときの要点を、4つに絞ります。

  1. 段階の正確な把握が、すべての介入の前提——手指BRSは上肢と分けて診る
  2. 母指は”動かす前に感じさせる”——指腹接触とCM/MP関節の運動覚が入口になりやすい
  3. 力任せ・過剰努力は逆効果——連合反応と共同運動パターンを招き、分離運動を妨げる
  4. 粗いBRSを微細な指標で補う——運動覚の正答率などを記録し、回復の兆しを見逃さない

読み終わったら、やることは1つだけです。

明日、担当患者さんの母指を閉眼でそっと他動運動させて、「今、どちらに動きましたか」と聞いてみてください。

その答えが当たるか外れるか——そこが、動かない母指への介入の入口となります。

ヤマ
ヤマ

「動かへん手」を前にして立ち止まったときこそ、感覚っていう別の入口を思い出してな。

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以上、ヤマでした〜。


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